カフェのある風景[アメリカ]
天気のいい日、ダウンタウンのピアから南に視線を送れば、NFLシアトル・シーホークスとMLSシアトル・サウンダースのホームグランドのクエスト・フィールド、MLBシアトル・マリナーズのセーフコ・フィールド、その彼方にタコマ富士と言われるレイニア山が望める。
また、ダウンタウンの北、クィーン・アンの丘の上にある絶景名所のケリーパークからは、右にピュージェット湾、正面にシアトル・センターのスペース・ニードルとダウンタウンの摩天楼を一望できる。絵ハガキにもなる、ともにシアトルを代表する風景だ。
しかし、90年代に入ってから「もっともシアトルらしい」と言われる風景は、街のそこかしこで誰もが出会うことができる。カフェである。
はじめてシアトルを訪れた人が最初に驚くのは、カフェの多さだろう。シアトル系という言葉もよく聞くし、シアトルにはカフェがたくさんあることくらい知っている、という人も、おそらくシアトルのダウンタウンを歩いてみればその想像を超えるはずだ。
ビジネスやショッピングの中心となるダウンタウンでは、ほとんど20~30メートル間隔でカフェがあると言っても過言ではない。さらに表通りから見えないオフィスビルの中にもコーナーカフェがあるから、その数たるや相当なもの。試しに一度数えてみたことがあるが、ウエストレイクセンターから4th Ave.を南に向かって歩く中で、わずか4ブロックのあいだに9軒ものカフェがあった。もっともこれも路面店だけで、ビルの中にもあるので、実際はもっと多いはずだ。
さらに、シアトライツ(シアトルっ子)はカフェのロゴの入った紙カップやタンブラーを持ってふつうに歩いている。もっと言うなら、ストリートパフォーマーの前に、缶や帽子ではなく、グランデサイズのカフェの紙カップが置かれているのもよく目にする光景だ。
こうした光景はダウンタウンだけではない。学生街にもカフェが軒を並べているし、大学の中にもカフェがあるし、キャンパスにはワゴン車のカフェが停まっている。日本なら「お客は来ないだろう」と心配になってしまうような静かな住宅街にだって何軒もの個性的なカフェがある。また、郊外の何もない街に行っても、コンビニよりも先にカフェが目に入る。シアトルはまさにカフェの街であり、カフェを避けては歩けないのだ。
さて、カフェと書いているが、いわゆるシアトル系コーヒーを売る店はコーヒーショップだ。もちろん「カフェはどこ?」で通じる。が、シアトル系コーヒーとも言うし、スペシャルティ・コーヒーとも言うし、日本でもお馴染みになったスターバックス・コーヒー、シアトルズ・ベスト・コーヒー、タリーズ・コーヒーと、みんなカフェではなくコーヒーを使っている。
厳密に言うと、カフェにはいくつかの種類がある。本格的な料理やワインなども飲めるカフェ・バー、焼きたてのパンなどを売るベーカリー・カフェ、ドーナッツやカップケーキなどを販売するスイーツ・カフェなどだ。ただし、ほとんどのカフェで出されるコーヒーはいわゆるシアトル系で、どこで飲んでも味は間違いない。
2010年現在、シアトルには200を超えるロースター(焙煎業者)があり、それぞれ味を競いながらカフェやレストランに豆を卸している。チェーン店はもちろん同一の豆を同一の抽出機を使って淹れているが、インディペンデント系のカフェの場合、違う店でもロースターがおなじということがある。それでもオリジナルのブレンドやローストで、他店と差別化しているケースがほとんどで、飲み比べ、味比べをするならオリジナルブレンドを注文してみるといいだろう。
かつて、シアトル系コーヒーが登場するまで、つまり1980年代はじめまで、アメリカのコーヒーは不味かった。ダイナーやファストフード店、バーガーショップはもちろん、そこそこの値段を取るレストランでも、コーヒーを注文すると、出てくるのは一様に香りも深みもないこげ茶色の液体だったからだ。「だった」と言ったが、これだけシアトル系コーヒーが一般的になったのに、まだ$1弱で飲み放題の液体を出しているダイナーや食堂も実は多い。個人的には「これもアメリカの味」だと、嫌いではないが。
しかし、なぜに西海岸の北の都市シアトルで、これほどカフェが発展したのだろうか。そしてなぜ、シアトル系といわれるコーヒーとカフェのスタイルが、西海岸から全米、アジア、そして世界中へと広まったのだろうか。
〈ダウンタウンエリアのカフェ 1〉
SEATTLE COFFEE WORKS
住所:107 Pike St. Seattle
TEL:206-340-8867
営業時間:月~金 7:00~19:00 (土は 8:00~) /日 9:00~18:00
定休日:なし
https://www.seattlecoffeeworks.com
味にうるさいコーヒーおたくに人気の専門店。飲み比べができるコーナーも設けられている。メニューに迷ったらオリジナルのPike Street Blendがいい。
著者:倉本哲
シアトルのカフェ事情から、Metroの活用やダウンタウンの紹介、シアトルカフェガイドまで、シアトルの街を散歩気分で楽しむための方法やコツが満載。
【Yubisashi Shop】 ワンテーマ指さし会話 シアトル×カフェ