東京パラリンピックの競技、ブラインドサッカーのイベントに参加しました@平塚総合体育館
コロナ禍のオリパラを考える
2020年秋以降、オリンピック、パラリンピックに向けての案件をご相談いただくことが増えております。
その制作過程では、外国人を迎える様々な立場の方とお話しする機会がありますが、痛感するのは、コロナ前に検討されていた想定が大きく変わってしまったこと。
来日する選手、役員、関係者、観客、それぞれにどんな対応をするべきなのか? そもそも、何をどこまで検討すべきなのか? 手探りの場合が多いようです。開催の規模も形も、どんなものになるかわからないので当たり前ではあります。
そこで、少しでも、現場で外国人対応を担っている方のヒントになることがあればと、様々な現場で見聞きしたコロナ対応のレポート、担当の方のインタビューなどを掲載していきたいと思います。
※制作支援についてはこちらをご参照ください。 ▶コロナ禍の今こそ「指さし会話」でコミュニケーション支援
▶ コロナ禍のオリパラを考える(2020年11月より記事更新中)
✴︎平塚市で行われたオリパラのイベント✴︎
12月6日(日)、「ブラサカ®︎と考える共生社会 in HIRATSUKA」が行われました。ブラインドサッカーの試合観戦のほか、ボッチャの体験もできるというもの。
そしてこの日のイベント、もう一つ大事なこともありました! 弊社も制作に携わった平塚市オリジナルの「指さし会話帳」がお披露目となったのです。
これは是非見ておかねば、と思い出かけてみることにしました。
会場は、平塚市総合公園内のトッケイセキュリティ平塚総合体育館です。
平塚市はリトアニアのホストタウン
平塚市は東京2020オリンピック・パラリンピックに向けて、リトアニア共和国のホストタウン・事前キャンプ地となっています。
ホストタウンは日本の自治体と、オリパラの参加国がスポーツや文化で交流を深める取り組みです。
事前キャンプは、大会の前にトレーニングすること。
つまり、平塚市はオリンピック・パラリンピックを契機にリトアニアと友好を深め、大会直前のリトアニア選手達の練習場所ともなる、ということなんですね。
神奈川県では他にも、11市3町がさまざまな国のホストタウンとなっています。
リトアニアってどこにあるの?
とはいえ、平塚がホストするリトアニアってどこにあるの? と思う方も多いかもしれません。これは受付で配られた資料の中に地図がありました。ロシアの西、バルト海に面したバルト三国の一番南なんですね。
リトアニアの面積は6.5万平方キロとのことで、東北地方(青森・岩手・秋田・宮城・山形・福島)と同じくらい。
人口は2018年に281万人とのことですので、だいたい茨城県や広島県と同じくらいです。
ロシアから独立したのは1990年ですが、その後のオリパラでは、すごく活躍しています。
・1992年バルセロナ-1996アトランタ-2000シドニー五輪で男子バスケが三大会連続で銅(男子バスケは2013年、2015年に欧州選手権で準優勝している強豪)
・2004アテネ-2008北京-2012ロンドンの近代五種で金銀銅計4つのメダル
・2012ロンドン五輪で女子100m平泳ぎ金
・2016年リオパラリンピックのゴールボールで優勝
自分の街で練習した選手たちが大会で活躍してくれたら嬉しいもの。事前の交流で、リトアニアの文化を知り、選手と交流があり、練習の様子を見ることができたら、やっぱり応援したくなるものだと思います。
全国のホストタウンで、いろいろな取り組みが期待され、計画されているのです。
今回のイベントの経緯と概要
東京オリンピック・パラリンピックが延期となった後、今回のイベントはリトアニア代表のゴールボール、ブラインドサッカーのチームを招いて、日本代表チームと対戦という形で計画されていました。しかし現状は海外からの来日は難しい状況。そこでブラインドサッカーのイベントを行うことになったそうです。
そして、今回のイベントはブラインドサッカーと合わせて、共生社会がテーマでした。障害のある人もない人も、共に協力しあい理解しあって暮らすことのできる社会を作っていこう、そのためのヒントを探ろう、というテーマです。
もちろんホストタウンとして、リトアニアの紹介をすることもテーマでした。
事前申し込み
今回のイベント開催にあたり、コロナ対策ではいろいろと議論はあったそうです。参加人数の規模についても、無観客で行うことも含めて、検討されたとか。最終的に300人以上の申し込みとなった場合には抽選として、ネットで参加者を募る形で行われました。
参加者は、当日の受付で健康状態などを記入した誓約書を提出することになっていました。
受付
会場の受付の様子です。
まずは最初に検温ポイント。ここでモニター式の検温機で来場者は皆、チェックを受けます。
この対応をしていたのが、現在、平塚市の職員として働いているリトアニア人のラサさんでした。ラサさんには、指さし会話帳の翻訳や、音声ペン用の録音でもお世話になりました。すごく陽気な方なので、来場者たちににこやかに話しかけていました。イベントはやっぱり楽しいほうがいいですよね! このキャスティング、とってもよいなあ、と思いました。
その後、手指の消毒をして、受付で名前を確認してもらい、誓約書の提出です。引き換えに、いろんな資料の入った袋をもらいました。
神奈川県で行われるオリパラの競技案内、指さし会話帳、バリアフリーマップ、簡単な手話のガイドブック。さらにはリトアニア国旗をモチーフにしたマスクも入っていました。
観客席
観客同士の距離を保つために、着席不可の座席が決められていました。
3つ着席不可の椅子があり、1つ着席可、というふうに貼り紙がしてありました。
さまざまなブース
ブラインドサッカーの紹介、リトアニアの民族衣装、リトアニアのパラスポーツの紹介、神奈川県の事前キャンプ実施予定国紹介などの展示がありました。
その中には、指さし会話帳の紹介ブースもありました! 今回弊社で制作に携わった指さし会話帳には、リトアニア語と英語のあいさつや、選手のサポート、健康状態の確認やコロナ対応の言葉などを掲載しています。
また、音声ペンを使うとリトアニア語と英語の発音を聞くこともできる仕様です。
音声ペンで発音を聞いてみる方、ブースにいたラサさんと会話される方で、にぎわっていました。
イベントの流れ
体育館のメインフロアでは、元サッカー日本代表の石川直宏さん、湘南ベルマーレフットサルクラブの鍛代元気選手、林田フェリペ選手、ロドリゴ選手、フィウーザ選手が登場してブラインドサッカーを体験しました。
ブラインドサッカーのボールは中に鈴が入っていて、転がると音がします。体育館に小さな鈴の音が響きます。
みなさん、ドリブルしたり、シュートすることは上手にこなしていましたが、ボールがどこに来ているのかわからず、止めることには四苦八苦。ブラインドサッカーで難しいのはボールを止めること、というのがよくわかりました。
また、視界ゼロの世界で、周りの声を頼りにボールが来ることを把握し、相手がどこにいるかを見極め、ゴールの方向を教えてもらい、シュート、その錯綜する情報を処理しながら動かないといけません。ブラインドサッカーは頭がものすごく疲れるスポーツとのことでした。
ブラインドサッカーとは?
フィールドプレーヤー4人、ゴールキーパー1人で1チーム。フィールドプレーヤーは弱視や完全に視力のない方たちで、出場の際には目隠しのツールをつけます。弱視の方も完全に見えない形でプレーします。ゴールキーパーは視力のある方。
実は、この視力のある方の存在も重要で、相手ゴールの裏にゴールの位置を知らせる方が一人、そしてチームの監督がコートの横で指示を出します。ゴールキーパーも声かけをします。この3方向からの声かけで、フィールドプレーヤーは自分の位置や、相手の状況を把握します。そしてもちろんボールが転がる音。
こういった音が選手達に聞こえるように、観客は静かに見守らないといけません。ただしゴールのあとは盛大に喜んでよいとのこと。
コロナ禍では、歓声を上げることは控えなくてはなりませんが、大きな拍手で喜びを表現しましょう、という説明がありました。
ちなみに、日本国内のブラインドサッカーでは、視力のある方も目隠しをすればフィールドプレーヤーとして出場可能で、女子も男子と一緒に出場できるとのこと。この日の試合でも、いろんな方が入り交じったチームが構成されていました。
試合前の練習
この日の試合は、神奈川のbuen cambio yokohama(ブエンカンビオ横浜)と東京の乃木坂ナイツの対戦でした。
ブラインドサッカーの説明があった後に、場内は試合までの休憩時間兼ブース見学、ボッチャ体験の時間となったのですが、その間にメインフロアでは、両チームのウォーミングアップが始まりました。
これを見て驚きましたが、両チームとも選手たちがコート内をバンバン走り回っています。
いやいや、見えてないんだよね? どういうこと? と正直わけがわかりません。そしてなんだかすごくガチな雰囲気。かなり気合いが入っている印象でした。
試合とその後のイベント
15分ハーフの試合で、スコアはbuen cambio yokohama2-0乃木坂ナイツ。
終了後にbuen cambio yokohamaの近藤凌也選手がインタビューを受けました。19歳の近藤選手は神奈川県立平塚盲学校の出身。小学校の時にブラインドサッカーを体験したことから、チームに入り練習してきたそうです。途中から視力を失った選手は、サッカーを見た経験がありますが、近藤選手にその経験はありません。ですから、他の選手のプレーを見た経験はない。自分のプレーもすべて練習の中で1つひとつ作り上げてきた、ということでした(さらっと書きましたが、すごいことです)。
イベントの感想:ガチなパラスポーツがすごすぎる
ブラインドサッカーに興味はありました。見えない中でのプレーってどんなものだろう? どんなふうに試合が展開されるのだろう? どうやってシュート入るのだろう? 等々です。
でも、試合が始まったら、とにかくその激しさに、まずは驚きました。
ブラインドサッカーのコートの横方向には壁が作られていて、ボールが出ていかないようになっています。そこで待っているフィールドプレーヤーにゴールキーパーからボールが送られ、ボールを止め、キープし、ドリブルして攻撃していくというのが基本的な作戦となるのですが、ゴールキーパーからのボールを受け取ろうとしていると敵の選手がバチバチぶつかってきます。
壁にお互いが体を押しつけあってボールの取り合い。アイスホッケーの壁際の攻防を、防具もつけずに視界のない中でやっている、という状況です。壁に体がぶつかる音がバタン!バタン!と体育館に響きます。
選手同士のぶつかり合いもありますが、悪質なもの以外は反則がとられることもありません。ガツガツぶつかって、転ぶのは想定内。
ボールの位置の判断を誤って、ボールを踏みつけて壁際で選手が激しく転倒したりします。
そんな中で、ものすごい勢いでドリブルし、さらにドリブルで相手を交わし、強烈なシュートをする選手。相手ゴールキーパーの投げるボールが来るコースを聞き分けて、スライディングしてインターセプトする選手。
とにかくすごかったです。
選手達の表現の中で「コート全体を俯瞰しているような視点で考えている」とか、「自分のいる場所がわからなくなったら、周りの声を頼りに一度、コートの真ん中に行き、そこからリセットしてポジションをとる」といったものがあったのですが、視界のない中で試合の様子は選手達にどう映っているのだろう? と想像しようと思いましたが、想像を絶していました。
視界のない中でのプレー、そして体のぶつかり合いの激しさ、どちらも強烈な印象が残りました。
実はこの日、体育館の隣の競技場でJリーグの試合、湘南ベルマーレvsガンバ大阪の試合も行われました。
帰宅後にその試合もテレビで少し見たのですが、ブラインドサッカーの迫力に圧倒されていたので、Jリーグの試合をテレビで見ても、「まあ、この人たちは目が見えるし。ぶつかったらすぐ反則とってもらうし」という感想を持つ自分がいて、おかしかったです。そのくらいブラインドサッカーは強烈でした(もちろんJリーグの選手もガツガツぶつかっているのですが)。
きっとパラリンピックのどの競技も、実際に観戦すると同じような驚きがあるのだと思います。やはり、その場で見ないと伝わらない迫力というものがあります。
今回の運営にあたり、スタッフの方は二週間の検温と行動記録をしたり、受付等のスタッフと、選手の動線を完全に分けたり、入場者数をどの規模にするか検討を重ねたり、事前の準備にも大変な労力があったようです。選手達の安全を守るために、チームともいろいろな調整が行われ、ようやく観客を入れて行われた試合でした。
両チームの選手にとっても、自分たちのプレーを見せるよい機会だったのだと思いますが、気合いが感じられました。おそらく、その選手達の気持ちも観客席に伝わっていたのだと思います。
東京パラリンピックも、試合を観戦する方たちに、とてつもなく大きなインパクトを与えるはずです。そのことを実感させられる貴重なイベントでした。
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