銀聯・スマホ・生体…中国の「支払い」激変中
「銀聯カード」から「スマホ決済」そして「生体認証」へ。中国の決済についてのレポートです
『ビジネス指さし会話帳 中国語』著者の亀田純香です。
中国のWeChat関連の記事をここまで3回にわたり紹介してきました。
→第1話「中国版LINE、WeChatがいろいろとスゴい(WeChatの基本機能)」
今回は、銀聯カードも含めた中国の決済システムについて、私が在住している上海の様子をベースにご紹介したいと思います。
キャッシュレス化の進む中国と「銀聯(ぎんれん)」カード
中国の急速なキャッシュレス化については、日本でもニュースなどで取り上げられているようです。
最近では、このキャッシュレス社会を体験しようと、日本から視察に訪れる企業の方も増えてきました。私も、実体験できる店舗などの下見をして、見学コースをアレンジさせていただく機会が多くなっています。
日本の商業施設でも、中国人観光客を意識してスマホ決済を導入するケースが出ているようですが、まだまだ「銀聯」カード対応のほうが多いとか。
実は、編集部から「銀聯カードのことを書きませんか?」と連絡をもらったときに、少々驚きました。中国国内では、銀聯カードの存在感がどんどん薄れてきていて、ほとんど忘れられているといっても過言ではないからです。「銀聯」「ああ、そういえば、昔使ってたカードよね?」という会話が聞こえてきそうです。
そこで、今回の記事を書くにあたり、上海現地での支払い事情を改めて見てまわりました。皆さんの参考になれば幸いです。
67億枚発行の「銀聯」
「銀聯」について簡単に説明しておきましょう。
「銀聯」は中国のブランドで、「UnionPay(ユニオンペイ)」とも呼ばれています。2018年5月には世界総発行枚数が約67億枚に達しているそうです。
一般的に「銀聯」カードは2種類あり、そのうちの一種類が中国国内で発行されているデビットカード機能の銀聯カードです。
どういうことかと言うと、中国では銀行で口座を開設し、キャッシュカードを作ると、自動的に銀聯マークがついてきます。つまり、キャッシュカードは最初からデビットカードであることが基本。このため、銀行口座からわざわざ現金を引き出さなくても、買い物のときにこの銀聯カードで支払えば、直接口座から自動引き落としされます。
現金を持たなくてもよい便利さに、少額でもこの銀聯カードを使って支払いをする人が少なくなく、日本円で100円程度の買い物でも、銀聯カードがよく使われていました。
とはいってもカード決済は、伝票を打ち出し、サインをするなど、タイムロスがあります。
ですから、早朝の出勤ラッシュ時のコンビニで、わずかな金額を払うために銀聯カードを使う光景に初めて出くわした時は違和感を覚えたものです。
ただし、そこは慣れの問題もあり、今では、現金を使うほうがロスが多く、面倒だと思うようになりました。お金を渡して、その金額への釣り銭を計算して、釣り銭を渡して、金額を確認して、、、と手間が多いからです。
それに100元札を使えば、必ず、偽札チェックが入りますから、これもまた面倒ですね。
中国で銀聯カード払いが普及した原因としては、現金が好まれないことも影響していると思います。
そして、中国で現金があまり好まれない原因には、偽札問題とか、中国の最高額紙幣が100元(約1600円程度)で、高額の買い物の際には不便ということがあげられます。
日本で使われるのは、銀聯のクレジットカード
一方で、海外で中国人が使っているのは、クレジット機能のある銀聯カードです。VISA、JCBなどと同等の機能をイメージしてもらうとわかりやすいです。
中国人の出国ブームで、よく使われているのが「銀聯」カードだと知名度があがり、世界各国でその加盟店が増えてきました。
つまり、日本の皆さんが言う銀聯カードはこの銀聯のクレジットカードです。
一方、中国国内にいる私たちが「銀聯カード」ときくと、銀聯のデビットカードを思い浮かべるので、最初にご紹介した「銀聯カード」支払いをほとんど見かけないということになります。
こうした状況をふまえ、最近では、国内のスマホ決済の急速な普及率の影響もあり、海外旅行をする中国人観光客、とりわけ若者を中心に、「スマホ決済できないかな?」「なぜ出来ないのだろう」と、スマホ決済ニーズが高まっているようです。
背景には、もちろん、使い慣れているからということもあるかと思いますが、ほかにも、海外旅行をする若者全てがクレジットカードを所持しているとは限らない、という現実もあるようです。
銀聯支払いのマークを見かけない
スマホ決済が普及する前、この銀聯のデビットカードは中国国内で、とてもよく使われていました。
しかし今回、上海の街で銀聯払いのマークを探してみたのですが、思った以上に見つけることが難しくなっていました。
大きな商業施設、コンビニ、飲食店などなど、ほとんどの場所で見かけなくなり、かわって、アリペイ(Alipay:支付宝)やウィーチャットペイ(WeChat pay:微信支付)のマークが目立っていました。私自身、この銀聯カードを使っていたことさえ忘れていたくらいですから、おそらく、多くの若い世代もそれにちかい感覚でいると思います。
これほど、中国での支払い方法として「銀聯カード」が下火になった理由としては、次のようなことが考えられます。
先にも書きましたが、現金が好まれないため、銀聯カード払いも定着していました。ところが、より便利なスマホ決済が登場すると、スマホで直接銀行カード(銀聯のデビットカード)にひもづけすることで、あえて、カードを別に持つ必要がなくなったのです。
スマホ決済の普及で、お財布を持たない若者も増えているので、カード自体を携帯するということが少なくなりました。
もちろん、銀聯カード払いの時代があったことで、スマホ決済が簡単に受け入れられ、すんなり移行できたとの見方もあると思います。
スマホで決済すると、例えば、アリペイで支払いを統一しておけば、アプリ内で、自動的に毎月の利用レポートや支出分析をしてくれ、小遣い帳がわりの役目を果たしてくれますし、使えば使うほど、優待サービスが出てくるという嬉しい機能もあります。
銀聯カードも様々な優待サービスを打ち出し、巻き返しをはかっていますが、スマホ決済には劣っているのが実情です。
こうして、中国国内の消費現場から、支払いの主役をスマホ決済に譲っていったのが銀聯カードの現状なのです。
スマホ決済のみで生活できる!?
さて、スマホ決済についてですが、上海で生活している私自身も、Alipay(アリペイ/支付宝)やWeChat pay(ウィーチャットペイ/微信支付)といった、スマホ決済をよく利用します。現金で支払うよりも、これらスマホとアプリを介して支払いをすることのほうが多くなりました。
(編集部より:この点については、以前の記事でも触れられているので、ぜひお読みいただければと思います)
→第1話「中国版LINE、WeChatがいろいろとスゴい(露店でも決済用QRコードが普通)」
→第2話「ビジネスツールとしてのWeChat」(カルフールのスマート店など)
今までは交通カードを使うのが一般的だった市内バスや地下鉄なども、スマホアプリで乗車できるようになりました。
食事の注文や支払い、買い物もスマホがあれば大丈夫。スマホ1つあれば十分生活できてしまいます。
AlipayやWeChat payが使えないところと聞かれて思いうかぶのも、税関やお寺などの拝観料といったごく一部です。キャッシュレスは当たり前のものとなり、スマホ決済をよく利用する人は、外出する時に、お財布を持たなくなりました。
私自身も上海市内だけを移動するときはお財布を持たずに出かけることが多いです。
一方で、現金や銀聯カードでの支払いができず、AlipayやWeChat payであれば支払えるといったところも出てきました。こうして見ると、中国国内においては、スマホ決済やアプリは現金やカードよりも重要だと言えるかもしれません。
その反面、スマホがないと何にもできません。充電が切れることは大問題。充電器は必携アイテムです(外出時の充電事情やさまざまな施設でのバッテリーチャージャーのサービスなど、面白い話もあるのですが、それはまたの機会に)。
これから導入するなら、銀聯かスマホ決済か?
この記事を読まれる方の中で、中国人観光客の支払い対応について検討されている方もいらっしゃるかもしれません。その場合、参考にしていただきたいのが、中国人のどのような層をターゲットにするかということです。
中国国内でも、中高齢者にとりスマホ決済はハードルが高いです。中高齢者をターゲットにするのであれば、やはり、まだ銀聯カード対応のほうが利用しやすく、ニーズも高いかと思います。
一方で、現在の消費力を牽引している80年代、90年代といった若者世代をターゲットにするのであれば、使い慣れているアリペイやウィーチャットペイを導入するほうが、ぐっと購買率を上げることができますし、便利さなどのアピール力も高まります。
日本でもスマホアプリやQRコード決済への関心や、機運が高まっているようですが、支払い機能を検討する際に、ぜひこうした傾向を踏まえて、Alipay やWeChat Payも選択肢の一つとして検討されてはどうかと思います。
中国では、次世代決済の時代へ
中国の都市部ではすでに、スマホ決済以降の「次世代」決済へとステージが向かっています。
その代表といえるのが、生体認証決済です。北京、上海、杭州(浙江省)、深圳など主要都市では、すでに顔認証やてのひらの静脈認証決済サービスが使われ始めています。これらが目指すのはスマホも必要のない、手ぶらでの買い物です。つまりキャッシュレスから先に進み、スマホレスが現実のものとなりつつあります。
生体認証の初回利用時には、一般的に携帯番号などを登録します。中国では携帯番号は実名登録が義務付けられているので、これで自動的に本人確認ができ、顔や静脈などの生体の情報と本人がひも付けられるわけです。
ファストフード店のKFCでも、注文・決済の端末に顔認証機能を導入して話題となりました。
また、アリババグループ本社のある杭州市では、大学の出欠確認や学食の支払いに顔認証を採用したこともニュースで大きく取り上げられています。
そのほか、無人コンビニ、無人スーパー、無人カラオケ、無人ジム、無人銀行、無人自販機など、ありとあらゆるサービス施設の無人化も進んでいます。
上海で暮らしていると、日々実際にこうした流れを見ることになるとはいえ、今後、全てのサービスにおいて、スマホレスや無人化になるとは考えにくいのですが、数年前に、スマホ決済がこれほど広範に使われるようになるとは想像できなかったことを思い返すと、将来、どのような社会に進むのか、予測がつきません。
もしかしたらスマホレス社会に進む可能性もあるかもしれませんね。