日本語を外国語に翻訳する難しさ
〜インバウンド対応の会話ツール制作のノウハウ〜
指さし編集部のHです。
外国人観光客対応の「指さし」
ここ数年、日本を訪れる外国人観光客が増えつづけているのはご存知の通り。東京の丸の内線、銀座線といった地下鉄に乗れば、外国人旅行者のグループに出会わないほうが珍しいくらいです。
当然、外国人のお客様対応が必要な職場の方もたくさんいらっしゃいます。そういった企業の方向けに、弊社ではオリジナルの「指さし」を制作しています。
業種は、交通、宿泊、飲食、観光案内、商業施設等々多岐にわたります。
納品の形も印刷された冊子、ラミネートシートのバインダー、アプリと様々です。
この記事では、そういった外国人対応ツールを作るときの苦労話を書いてみたいと思います。
日本の常識が崩れる瞬間
私は、指さし会話帳を編集しはじめて、20年以上になります。数多くの著者の方々と仕事をしてきました。皆さん、それぞれの国の言葉を習得し、その国の文化についての豊富な知識を持つ方たちです。
指さし会話帳の編集をしていて面白いのは、日本で当たり前と考えていたことが、決して当たり前ではないと思い知らされるところにあります。
たとえば、タイ語の時間の表現では、午後の4時、5時、6時の後、7時は全く別の言い方をします。7ではなく、また1から始まるのです。こんなことを著者から聞かされても、最初は何を言っているのか理解できません。
「いやいや、まさか、時間をそんなに面倒くさく表現するなんて、ありえない。勘違いか別の言い方してるのでは?」と最初は思い、何度かしつこく確認しますが、最終的に著者の言うことが正しいのだとわかる瞬間が訪れます。そして、こう思います。
「まさか、これほど当然と思っていた常識が崩れるとは!!」
日本の常識と、他の国の常識のギャップは、いつも予想外のところにあるのです。日本の常識から発想していたページ構成のプランは、結局、立て直さなくてはなりません。
外国語を話す人とのコミュニケーションをスムーズに導くためには、日本の常識から発想しているだけでは、うまくいかないのです。外国語の常識と、日本語の常識をうまく折り合いがつくように調整することが大切なのです。
どこに常識のギャップが潜んでいるのかわからない
ことは時間の表現に限りません。
・インドネシア語の「いいえ」にあたる言葉は質問文によって少なくとも3つあり、一つにはまとめられない。こういう言語は多く、たとえば中国語も同様。日本語の「はい」「いいえ」、英語の「Yes」「No」のようにいかない言語は多い。
・デンマーク語には「暑い」という言葉がないので、「とても暖かい」「ものすごく暖かい」のように表現する。
・ドイツにはコンビニという業態がないので、コンビニを翻訳しようとすると説明が必要で長くなる。
・タイ語の文末には、男性ならば「クラップ」、女性ならば「カー」を付けるべき。
・中国語の曜日は数字で表現される。
・日本は24時間制の表現を、話し言葉で使うことも珍しくないが、話し言葉ではほとんど使わないという国は多い。
・メキシコでも「ramen」は十分通じる言葉。
・台湾の路線名などで出てくる「舊」という文字は「旧」の旧字体。同様に、「著」は「■」の旧字体(答えはこの記事の一番下にあります)。
外国人対応の「指さし」でも、同じことが起こる
企業の方向けの「指さし」を作っていると、こんな言葉を載せてほしいという希望をまとめて、たいていの場合、3種類か4種類程度の外国語を用意していくことになります。案件にもよりますが、指さし会話帳の著者に協力してもらう場合も多々あります。
必要となる言葉は、基本的には接客の言葉が多いです。そして、こういった言葉を扱っていても、日本の常識や発想通りには外国語に置き換えられないものに、必ずぶつかります。
・「お決まりですか?」「こちらでよろしいですか?」のような言い回しよりも、より直接的な表現のほうが、翻訳時のズレが生じにくい。
・「おすすめ」という表現がない言語がある。
・「いらっしゃいませ」も「こんにちは」も同じ表現になる言語がある。
・会計のやりとりでの、「このクレジットカードは使えません」。これが言語によってはうまく訳せない。日本語を変更する必要がある。
・「お通し」を説明するのは難しい(これは、想定内ともいえます)。
・「ライフライン」という言い方/概念がない国もある。
ほかにも、「スマホ(スマートフォン)」「飛行機に持ち込めない物」「バッグ」、、、等々ごく普通に使う言葉の中にも、とにかく、いろんなところに、日本の常識通りには翻訳しづらい言葉、落とし穴が潜んでいます。
指さし会話帳のノウハウ
弊社の制作する、企業の方向けの様々な「指さし」ツールでは、こういった細かな配慮をほどこす努力を続けています。その際に、指さし会話帳で培ってきたノウハウが様々なところに活かされています。
効果的なイラストの使い方、わかりやすいレイアウト、読みやすい文字といったことは当然のことながら、他にもここには書くことのできない膨大なノウハウがあります。
外国人のお客様対応でお困りの方は、ぜひお問い合わせください。オリジナルの「指さし」ツールの制作やセミナー等でお力になることができます。
現在、日本全国で、様々な職業の方が外国人の方の対応をされています。こういう言葉を伝えたいのに、うまくいかない、という方も多いことと思います。
「ただいま清掃中です」「持ち込み禁止です」「閉館時間です」「食べられますか?」「子供も料金が必要です」
日本各地の職場で、さまざまな言葉が必要になっているのではないかと思います。
弊社では現在、多業種の方それぞれに最適化した「指さし」を提供するサービスを準備中です。上に挙げたような言葉も、伝わりやすい表現を考えながら外国語に置き換えていこうとしています。
この準備についても、今後、この指さし20周年記念サイトでお伝えしていく予定です。
どうぞご期待ください!
本文中の問いの答え→「著」は「着」の旧字体です。