2021東京オリンピック・パラリンピックの試金石、体操国際大会レポート
コロナ禍のオリパラを考える
2020年秋以降、オリンピック、パラリンピックに向けての案件をご相談いただくことが増えております。
その制作過程では、外国人を迎える様々な立場の方とお話しする機会がありますが、痛感するのは、コロナ前に検討されていた想定が大きく変わってしまったこと。
来日する選手、役員、関係者、観客、それぞれにどんな対応をするべきなのか? そもそも、何をどこまで検討すべきなのか? 手探りの場合が多いようです。開催の規模も形も、どんなものになるかわからないので当たり前ではあります。
そこで、少しでも、現場で外国人対応を担っている方のヒントになることがあればと、様々な現場で見聞きしたコロナ対応のレポート、担当の方のインタビューなどを掲載していきたいと思います。
※制作支援についてはこちらをご参照ください。 ▶コロナ禍の今こそ「指さし会話」でコミュニケーション支援
▶ コロナ禍のオリパラを考える(2020年11月より記事更新中)
✴︎オリパラの試金石としての大会✴︎
2020年11月8日(日)、東京原宿の代々木第一体育館で体操の国際大会が開かれました。
「Friendship and Solidarity Competition(友情と絆の大会)」と名付けられたこの大会、
東京オリンピック・パラリンピック開催の場合のモデルケースになるとされ、普通のスポーツ競技会とは違った角度からの注目を集めました。
大会の開催を伝えるニュースを目にした方も多かったと思います。
・内村航平選手が陽性と報道。その後偽陽性と判明し参加へ
・アメリカ、ロシア、中国から選手団が隔離期間を経て来日
・大会が無事開催され、IOCのバッハ会長もビデオメッセージ
オリンピック、パラリンピックのモデルケースとなるならば、見ておかねばと思い、チケットを購入して会場に足を運びました。以下、簡単に概要をまとめていきたいと思います。
選手
日本、アメリカ、中国、ロシアから30名が参加。
各国の選手は2週間の隔離期間を経て来日。
日本滞在中も、移動範囲を厳しく制限されました。
運営や来賓など
運営は国際体操連盟で、連盟の会長が日本人の渡邉守成氏。
来賓に橋本聖子五輪担当相、小池都知事、萩生田文部科学大臣、ビデオ挨拶でIOCのバッハ会長。
最後に森喜朗オリパラ組織委員会会長、小川洋福岡県知事。
来場者
体操のファン層がやはり多い印象でした。
選手の追っかけ風の若い人もいましたが、多くは30~50代くらいの印象。
視察ぽい人、関係者も多い印象でした。
チケット
チケットはローソンの「ローチケ電子チケット」のみでした。
氏名や電話番号も登録して、ローチケの会員になり購入するもの。
2日前に普通に買えました。
席は、選択ではなく、自動で割り振られる形です。
前後左右の席は空席になるように、自動的に割り振られていました。
会場到着~入場へ
最寄駅の原宿駅から歩道橋を渡ろうとすると、警察の人が目につきます。
オリンピックパラリンピック開催反対のグループがビラを配っていました。
代々木第一体育館の敷地内へ入るとすぐに、車椅子の方向けに動線を案内する係員の方1名。
体育館の入場風景を撮影する報道陣の方も目につきました。
階段を上るとずらりと並んだ体温測定のポイントがあります。数台のモニター式の検温機が並び、一台ずつに係員の方がいました。
つづいて、チケット確認ポイントで、行列を作るためのコースが作られていました。
チケット確認ポイント
今回、来場者がそう多いわけではなく、開演一時間前のタイミングだったので並ぶこともなく、チケットポイント手前へ。
私の前のアラフィフくらいの女性が、チケットアプリの操作に手間取っていました。
2分くらい待ったものの、操作がうまくいきそうになかったので、別の列に移って入場しました。
私自身も、スマホを提示するチケットでは、何度も焦ったことがあるので、人ごとではありませんでした。
アプリのチケットは、非接触で管理もしやすいのだと思いますが、通信環境や不慣れな操作で戸惑う場合も多いです。
利用者からすると、選択肢が他にもあるほうがよいと思いますが、今回の開催では、運営サイドは他にも神経を使うことが山積みだったはずなので、チケットをアプリひとつに絞ったことは正解と感じました(アプリ操作でうまくいかない人は、10分かかってもやってもらうしかない)。
※手指消毒のポイントもどこかにあったはずですが、確認を忘れました。モニター式の検温、スマホで本人操作によるチケット確認と非接触を徹底していたので、入場後に消毒だったのかもしれません。この順番をこれまで深く考えたことがなかったですが、今度はよく見ておきたいと思います。
配布物、掲示物等
コロナウイルス対策のための、LINEを使っての技術実証を行っていて、その協力を求める印刷物をもらいました。
掲示物としては、マスク着用、手指消毒、検温、ソーシャルディスタンス、大きな声を出しての会話・応援の自粛、手洗いを呼びかけるポスターが、入場前の各所、会場内の各所に貼られていました。
会場内の様子
代々木第一体育館に入ったのは初めてでしたが、一番驚いたのは、車椅子席への動線のスムーズさです。入場門を入っていいくと二階席の最前列ですが、ところどころに車椅子席が設けられているため、段差を気にすることなくたどりつきます。スペースも広いです。今回は、報道陣の撮影スペースとしても使われていました。
階段の手すりを消毒液で拭いている方がいたので質問したところ、今日の大会中ずっと拭き続けるとのことでした。
観客席には、チケットに書かれた座席に座るシステム。前後左右の席は空席になっていました。
体育館の観客席は大きく北側、南側に分かれますが、その両方の1階まで降りると、建物の外にそれぞれ喫煙スペースがありました。
食品類の販売ブースはお休み。会場内での飲食物の販売は飲み物の自販機のみでした。途中、食べる物を買いに外に出たものの、近くにコンビニはなくあきらめました。
競技フロア
開会式で選手が入場する際に通る場所に、角材とビニールシートで作られた大きなブースがあり、その中に消毒液を噴霧する機械が設置されていました。このブースについてはニュースでも取り上げられ、噴霧することの賛否もとりざたされました。ただ、私の近所の公営プールでは、水泳教室の先生がマウスシールドをして大きな声で指導しています。この場合にマウスシールドの意味があるのかどうか疑問はありますが、やらないわけにもいかない。それと同じようなもの、という感想を持ちました。
選手が出番を待つ間に座る椅子は、ある程度の間隔をおいて並べられ、そのスペースにはそれぞれ大きな空気清浄機が置かれていました。
段違い平行棒、鉄棒、マット(床運動)、跳馬、吊り輪、あん馬、平均台、それぞれの競技スペースが広い体育館に作られていました。
観客と声援
大きな声での応援は不可だったので、みなさん拍手で選手を激励し、ときどき抑えきれない歓声やため息が会場に響きます。ずっと、スポーツジムで流れていそうな音楽が流れていて、MCの人の声が会場を盛り上げながら競技の進行状況を伝えていました。
大会を見ての感想
10年以上前に子供を連れて、体操の国際ジュニア大会を見に行ったことがあり、今回は体操の観戦二度目でした。
やはり、ジュニアとは比較にならないほどレベルが高く、迫力があります。
内村選手の鉄棒を見て、大きな体育館全体の空気を支配するほどの迫力・エネルギーを感じました。同じような感慨は、中国の選手の吊り輪、アメリカの選手のあん馬などでも感じました。
直に、一流選手の技を見ると、その集中力やパワーに感動させられます。
同時に、平均台から落ちてしまった選手が最後の着地をきれいにきめたあと仲間やコーチと喜びあっていたり、段違い平行棒で失敗した選手とコーチがなにやら険悪な雰囲気になっていたり、そういった小さな出来事一つひとつが非常に心に残りました。
いろいろな思いを持って、アメリカ、中国、ロシアで準備をして日本にやってきた選手たち。その思いが伝わってくるからなのだと思いました。また、そのことを知った上で見つめる観客の思いも選手たちに伝わっていたのだと思います。
正直、コロナ対策の現場をレポートしようと思って出かけたところもあり、競技への興味は二の次のところもありましたが、演技を見ていてすごく感動しました。
一番最後の演技者として紹介されたロシアの選手があん馬に臨み、ここはきれいに決めるだろうと思ったら、まさかの途中で落下。しかし、その選手が最後に競技を終えると会場全体から大きな拍手が湧き起こりました。観客のほとんどが日本の方でしたが、この選手を応援する気持ちに国は関係ないな、と素直に思いました。
やっぱり、世界からいろんな人たちが集まって、競技する、そこに大きな意味があるものだなあと実感しました。
オリンピック・パラリンピックが開催された時に、その場から世界に伝わるメッセージも、相当に大きなものになると思います。
観客をどうするか? 日本に観戦者が入国できるのか? 課題は山積みですが、できないではなく、どうすれば実現できるのか? それを考えていくべきと思いました。
コロナ患者の症状を改善することができるのは医療従事者ですが、コロナで疲弊した世の中に希望を与えてくれる人は医療従事者以外にもいるはずです。
オリンピック・パラリンピックに挑む選手たちは、そういう希望を与えてくれる人たちだと思います。
参考リンク(スポーツ記事サイト、THE ANSWERの大会関連記事)
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内村選手のメッセージ
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