埼玉スタジアム2002で、Jリーグ・浦和レッズのコロナ対策を見てきました
コロナ禍のオリパラを考える
2020年秋以降、オリンピック、パラリンピックに向けての案件をご相談いただくことが増えております。
その制作過程では、外国人を迎える様々な立場の方とお話しする機会がありますが、痛感するのは、コロナ前に検討されていた想定が大きく変わってしまったこと。
来日する選手、役員、関係者、観客、それぞれにどんな対応をするべきなのか? そもそも、何をどこまで検討すべきなのか? 手探りの場合が多いようです。開催の規模も形も、どんなものになるかわからないので当たり前ではあります。
そこで、少しでも、現場で外国人対応を担っている方のヒントになることがあればと、様々な現場で見聞きしたコロナ対応のレポート、担当の方のインタビューなどを掲載していきたいと思います。
※制作支援についてはこちらをご参照ください。 ▶コロナ禍の今こそ「指さし会話」でコミュニケーション支援
▶ コロナ禍のオリパラを考える(2020年11月より記事更新中)
✴︎2021年東京オリンピック、サッカー会場✴︎
2020年11月22日(日)にJリーグの浦和レッズ対ガンバ大阪戦が行われました。試合会場の埼玉スタジアム2002は東京オリンピックでもサッカーの試合会場として使われることになっています。
先にレポートした体操の国際大会は2000人規模の入場者で行われましたが、この日の試合の入場者は2万人規模。今年のJリーグは2月から約4ヶ月の長い中断期間を経て、さまざまなコロナ対策をした上で再開したのですが、万単位の観客に対して、どんなコロナ対応がなされているのかを見てみようと、チケットを買って行ってみることにしました。
埼玉スタジアム2002の概観
埼玉スタジアム2002は、2002年日韓W杯の際に試合会場となったサッカー専用スタジアムです。このスタジアムをホームとする浦和レッズはJリーグで一番の集客数を誇り、2019年の平均入場者数は34184人。
浦和レッズの試合の他に、サッカー日本代表、高校サッカー選手権などでも会場となります。最大収容人数は63700人とのこと。
アクセス
最寄駅は埼玉高速鉄道(埼玉スタジアム線)の浦和美園駅。ここから20分ほど歩きます。浦和レッズの試合の際は、浦和駅、東浦和駅、北越谷駅などからバスが運行されています。
浦和美園駅
浦和美園駅に着いたのは試合開始の2時間前。まだ混雑はしていませんでした。
エスカレーターを上がって2階が改札階。精算機の前にうまく行列ができるようにコーンが配置されていました。
コンコースにもコーンが並べられていたので、職員の方に聞いたところ、こちらのコーンは、ホームに向かう人用とのこと。試合直前になると大勢の人がこの駅で降りて改札に向かうので、ホームに向かう人が歩けなくなります。その対応でこういうコーンが置いてあるのでした。
コンビニ
スタジアムで食べ物を買おうにも大行列かもしれない、と不安を感じたので、駅のすぐ隣のセブンイレブンで買い物をしました。
中に入ると5か所のレジの場所が大きく書いてあるのが目につきます。レジの前には透明フィルム。
そして、店の奥のほうから、曲がりくねった動線で並ぶように床に矢印が。何よりお客さんたちの多くが、浦和レッズの試合の前に、毎度のようにここで買い物する人たちなので、整然といつも通りに、いつも買うようなものを手にして並んでいるのが印象的でした。
お客さんもみなマスクをして行列はいますが、やっぱり混み合っているのが実情。
スタジアム到着
20分ほどの通路を歩くと、ようやく間近に見えてくるスタジアム。そこに「最後尾」のボードを持っている人がいます。何の行列?と思ったところ、プレゼントの抽選の列でした。
それを通り抜けると、新製品を無料配布しているブースがあり、こちらも行列です。人が集まるところには当然行列がつきもの。それぞれ、コースが仕切られ、密にならずに行列できるようになっています。誘導する人もいました。
スタジアム入り口周辺の様子
スタジアム入り口の周囲には、ロープなどを使って広い仕切りが作られていました。入場の際の流れが大きく表示されています。また、それぞれのポイントも周囲からよく見えるように、高い位置に大きな文字で表示されています。この後の流れが一目瞭然。すごくよく出来ています。
いよいよ入場
私も並んで、入場します。
まずはチケットを見せて、仕切りの中へ。すぐに消毒ポイント。係の方が消毒液を手に吹きかけてくれます。つづいて検温。ビデオカメラのような機械で係の方がチェックしています。
その後、荷物検査。ビン・缶の持ち込みはできないので、そのチェックです。係の方は荷物には触らず、こちらがバッグを開けて中身を見てもらいます。
ここを通るとチケットのもぎりの箇所ですが、ここは自分で半券を切り、スタッフの方が持っているビニール袋に入れる形式でした。ここでも、非接触を徹底していました。
会場内の様子
ここからは写真を挟みながら書きましょう。
食品販売の場所は行列がつきものですが、それぞれにソーシャルディスタンスを確保するための張り紙が地面にしてありました。入場のポイントやトイレなどにもありましたが、これを準備するのも大変な作業だと思います。枚数や必要箇所の把握、販売業者への説明等々、細かいノウハウが膨大にありそうに思いました。
入場の際にも張り紙がありましたが、場内でもいろんな場所でマスク着用の張り紙を見かけました。
Jリーグでは、応援の際の禁止事項を定めていて、どのスタジアムでもそれが統一されています。観客席に出る直前のところに、この張り紙がありました。
応援は拍手のみ。旗やマフラーを振り回すのはダメ。歌や指笛、メガホン、トランペットの禁止。などなどです。
私が購入した席は、自動的に割り振られる形でしたが、その際に前後左右の席は空くようになっていました。写真ではわかりにくいですが、市松模様に客席が埋まっていました。
試合の度に、こういった張り紙を掲示したり、ベビーカーのスペースを準備したりする方がいるのでしょう。スタジアムのあちこちで、長年の積み重ねを感じさせられました。いろんな裏方さんが試合を支えているのですね。
退場と駅
試合終了でスタンドからどっと人が出ていきます。スタジアムの外への誘導の方もたくさんいますが、その中でメガホンを持った方が、
「まっすぐ門へ向かってくださ~い! 間違ってもロープを飛び越えたりしないでください~!」
と言っていたのが印象的でした。私は小中の頃から、よくサッカーを見に行っていたので、わかるのですが、試合の後って興奮して子供は妙なことをしたくなるのです。そういうことを事前にいさめる素晴らしい声かけでした。
浦和美園駅に向かうのは憂鬱でした。大変な混雑でなかなか乗車できないだろうと思ったからです。しかし、その予想は外れました。
駅には続々とスタジアム帰りの人がやってきます。その人たちを待ち受ける駅側では、乗車するホームの案内を絶え間なく行なっていました。
「3番ホームは混雑してきました。エスカレーターを上がって1番ホームに向かってください」
等々と誘導しています。どうやら、2階に上らずに入れるホームと、エスカレーターで2階に上って入るホームの二つがあるようです。そこで上に上がってホームに向かったところ、すぐに乗車でき、車内はそれほど混雑していませんでした。3分ほど待つとすぐに発車。おどろくほどスムーズでした。
全体を通しての感想:裏方さんがすごすぎる
スタジアムを訪れて、きれいな芝生が見えるところに出ると感動するものです。ここは自撮りで写真を撮らねば! とガサゴソやっていたところ、近くにいた40代くらいのスタッフの方が「撮りましょうか?」と声をかけてくださって、縦向きと横向きでシャッターを押してくれました。すごくこの場に慣れていて、いろんなお客さんの対応をしてきたのだろう、と思わせる方でした。
私が座った場所は、アウェーのガンバ大阪のサポーター席に近いエリアでした。ガンバ大阪にとっては重要な試合だったので、周りにはガンバ大阪のサポーターの方も多かったです。ただし、サポーター席と決められた場所以外では、アウェーチームであるガンバ大阪のユニフォームを着たり、グッズ、エンブレムなどを見せる行為は、禁じられていました。
この判断は、Jリーグの中でも会場によるようです。全く何も言われないスタジアムもあります。ですが、浦和レッズは熱狂的なサポーターも多いため、トラブルを避けるための運営ルールなのでしょう。
私の写真を撮ってくれたスタッフさんが、試合開始直前に、大学生くらいのアルバイトスタッフ風の女性と、私の席の近くに来て、何やら話していました。そして指示を出された女性は、私の斜め後ろの席の男性のところまでやってきて、白いガムテープを見せながら何やら話しています。
それを見てわかりましたが、斜め後ろの男性はガンバ大阪のエンブレムの付いた服を着ていたため、ガムテープで隠すか、その服を脱ぐかをお願いされたようでした。男性は結局その服を脱ぎました。
お客さんの写真を撮ったりして楽しませながら、ルールを守るようにスタンドの客を見ている、こういうスタッフの人がいるのってスゴいことだなと思いました。
スゴいということでは、会場内のいろいろな張り紙や、駅職員の方のこなれた対応、コンビニのわかりやすい表示なども同様です。
ちなみに後日、試合日にバスの出る駅の一つ、東浦和をよく利用する人に話を聞いたところ、浦和レッズの試合のある日には、埼玉スタジアム行きのバスの発着所にコーンが並べられ、観戦に行く人たちは整然とそこに行列し、何事もないようにバスに乗っていくとのことでした。
埼玉スタジアム、浦和美園駅と同様に、近隣の駅も含めて、大変な量のノウハウの蓄積があるのだなあと驚きました。
これまでの長い蓄積があるからこそ、コロナ禍でのさまざまな対応もスムーズにこなせているのだと思います。もちろん、行列が密集しているところがあったり、部分部分を取り上げれば完璧でないところもあるのですが、これだけの運営をするのは大変なことです。
オリパラの際にも、こういった、現場の方の持つノウハウをうまく吸い上げることは重要になるだろうと感じました。
なお試合は、ガンバ大阪が逆転勝ちで優勝に望みをつなぎました。また、ガンバのサポーターの拍手の応援が工夫されていたことも印象的でした。
コロナで応援の制限が続く中、三三七拍子に匹敵するような、画期的な拍手応援が生まれるかもしれません。
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