東京オリンピック・パラリンピックのコロナ対策を読み解く!オリパラ・コロナ対策調整会議の資料レポート

オリパラのコロナ対策はどう検討されている? コロナ対策調整会議の資料を読んでみました!!

コロナ禍のオリパラを考える

私ども、情報センター出版局では、さまざまな自治体・企業様からご依頼をいただいて、外国人対応用の指さし会話ツールを作成しています。

2020年秋以降、オリンピック、パラリンピックに向けての案件をご相談いただくことが増えております。
その制作過程では、外国人を迎える様々な立場の方とお話しする機会がありますが、痛感するのは、コロナ前に検討されていた想定が大きく変わってしまったこと。
来日する選手、役員、関係者、観客、それぞれにどんな対応をするべきなのか? そもそも、何をどこまで検討すべきなのか? 手探りの場合が多いようです。開催の規模も形も、どんなものになるかわからないので当たり前ではあります。

そこで、少しでも、現場で外国人対応を担っている方のヒントになることがあればと、様々な現場で見聞きしたコロナ対応のレポート、担当の方のインタビューなどを掲載していきたいと思います。
※制作支援についてはこちらをご参照ください。 ▶コロナ禍の今こそ「指さし会話」でコミュニケーション支援

▶ コロナ禍のオリパラを考える(2020年11月より記事更新中)

9月から12月まで6回の会議開催

2020年9月4日から、東京オリンピック・パラリンピックのコロナ対応について検討する会議が開かれています。12月3日の会議が第6回でした。
この会議の内容は、オリンピック・パラリンピックの実施にあたり、どのようなコロナ対策を行っていくか具体的な指針を示すもの。オリパラに関わるホストタウンなどの自治体、事前キャンプ地、競技施設はもちろん、宿泊施設、交通機関、運営に関わる業者、聖火リレーの走る自治体など、多くの方たちに、その方針が関わってくる非常に重要なものです。

コロナの推移を見ながら進む準備

オリパラはもうすぐそこに迫っています。2021年3月25日には聖火リレーが福島県から始まることになっており、12月14日がその100日前でした。
その他の各種対応についても、2021年3月~4月頃にかけて、いろいろな方針が具体化される予定となっています。2021年に入ると矢継ぎ早に方針が決まっていき、春以降は7月のオリンピック開幕に向けて、実務レベルでの準備が急ピッチで進むことになりそうです。
もちろん、新型コロナウイルスの今後の動向は予測がつきません。日本だけではなく、世界の動向も関わります。今後の推移を見ながら具体案を決定し、実務の準備を進めることが必要となります。

目前まで迫っているオリンピック

聖火リレーも開会式も、もう目前です。運営サイドの4月以降の実務的作業は、かなりハードになりそうです。

組織委員会のページ

東京オリパラ組織委員会は、ホームページで会議の内容を公開しています。
12月3日の会議の内容については、資料が56ページ分公開されています。これを全部読むのも大変なので、以下に、重要と思われることをまとめていきたいと思います。
なお、この記事は、弊社が組織委員会のページで2020年12月15日時点で公開されている資料を読んだ上でまとめているものですので、その後変更になったり、解釈の齟齬などがあり得ます。より正確には、組織委員会のページを参照していただきますようにお願いいたします。

▶東京オリンピック・パラリンピック競技大会における新型コロナウィルス感染症対策調整会議について

アスリート用オリパラ準備トラック

(11月の会議資料までの通称は「アスリートトラック」)
オリパラの選手が、日本に来る前に所定の要件を満たすことで、日本に入国してから14日間の待機期間を経ずに練習や試合出場を可能にするルールのことです。
ここで選手と書きましたが、正しくは「アスリート等」。「アスリート等」には、審判、監督やコーチ、練習パートナー、キャディ、スタッフ、ドクター、パラアスリートの介助者などが含まれます。つまり、チームの監督や帯同する医師、介助者なども、選手同様に待機期間なしで活動できるようになります。
日本に入国する前の要件ですが、入国前14日間の健康状態のモニタリング、出国前(72時間以内)の検査で陰性の検査証明を取得することが条件となります。
入国拒否の対象国・地域からの入国者の場合は、日本に入国した際に空港で検査となります。
入国拒否の対象国・地域は、2020年12月現在で、米国、カナダ、英国、オランダ、スイス、スペイン、フランス、ドイツ、インド、インドネシア、ブータン、ミャンマー、マレーシア、トルコ、ケニアなどなど、大抵の国は入国拒否の対象です。つまり現状では、ほとんどの選手は日本に入国した時点で検査となります。
検査はPCR検査、抗原定量検査が想定されています。

入国後は、下記のようなことが検討されています。
・アプリで健康管理、接触確認アプリも使用
・入国時検査から4~5日後を目処に検査
・選手村入村3日前を目処に検査
・選手村では4~5日間隔で定期検査を受ける
・試合前にも検査(時期は各競技連盟と調整)
・基本的には競技会場や練習場と宿泊先を専用車で往復するのみの行動制限
・やむを得ない場合は飛行機、新幹線等を利用するが感染防止策を入念にする
・ホストタウン・事前キャンプ地を含む全行程を登録
・各国のオリンピック委員会(NOC)、パラリンピック委員会(NPC)で管理責任者を決め組織委員会に届け出る
・受け入れ自治体は感染防止策について「受入れマニュアル」を作成する
・受入れマニュアルの遵守についてあらかじめ合意書を取り交わす

PCR検査

選手たちは、入国前の健康管理に加えて、入国前/入国時の検査、入国後の定期的な検査を受けることとなりそうです。

アスリート用オリパラ準備トラックの前例

2020年11月8日に行われた体操の国際大会では、アメリカ、ロシア、中国の選手団が、日本入国まえに隔離生活をして来日し、来日後すぐの大会に参加しました。
2020年12月に、カタールで行われたサッカーのアジアチャンピオンズリーグ(ACL)に参加したJリーグのチームは帰国後に、14日間の待機期間を経ずに活動再開が許可されました。
オリパラに向けて、この方式が検証されています。

アスリート等を中心とする検査

アスリート用オリパラ準備トラックのイメージ(東京都オリパラ準備局HPより)。

事前キャンプ等の対応

事前キャンプ地となる各自治体は「受入れマニュアル」を作ることになっていますが、それを作成するための「手引き」が内閣官房から発表されています。正式には「ホストタウン等における選手等受入れマニュアル作成の手引き」と言います。
この「手引き」、さまざまなことが書かれています。全国の自治体で、対応の検討が進められているはずです。この中から、いくつかの項目を抜き出してみます。
・選手の入国後14日間、ホストタウンに滞在する間は、その行動管理について、自治体に一定の受入責任がある
・飛行機や新幹線での移動の場合のアテンドは自治体の責任で行う。その際、駅や空港で他の客と動線を分ける。
・飛行機や新幹線の中では、選手等と一般客の間に前後2列の空席を設ける。または1m以上の距離、貸切の専用車両など。
・駅や空港等で、売店などトイレ以外の場所の利用を控える
・宿泊はフロア単位で貸し切るなど他の宿泊客と動線を分ける
・宿泊する部屋はできるだけ個室
・宿泊先での食事は専用会場か自室でとることが原則
・ホストタウン交流はSNSやオンラインも活用して進める
・選手と見学者の距離を十分に保った、公開練習の見学
・オンラインでの選手との対話
・感染疑い、陽性者が出た場合に都道府県や保健所とどう連携するかフローを定めておく
外国語対応の準備をしておく
・入国後14日間を経過した選手等は、ホストタウンでの交流を推奨
・大会前は制限されるので大会後の交流を
これらは「例」として挙げられているものも多く、判断は各自治体に委ねられています。

新幹線イメージ

選手の移動に新幹線や飛行機を使う場合は、感染対策の徹底が求められそうです。

宿泊施設・公共交通機関

オリパラの選手たちは基本的には選手村に宿泊しますが、関係者はホテル等に宿泊します。
IOCや国際競技連盟の役員、各国の要人級であれば、組織委が宿泊先を用意し車両手配もするでしょうが、メディア関係者、運営に関わるスタッフ、海外から来るボランティアなどであれば、宿泊先は独自手配で公共交通機関での移動が前提となります。
もともと、公共交通機関をこういった人たちが利用することはオリパラの計画に含まれていたわけですが、コロナでいろいろな事情が変わってしまいました。今後の調整が必要となります。
・ホテルなどの宿泊施設に、十分なコロナ対策をすることを要請していく
・14日間の待機期間の扱いをどうするか?
・移動ルールを検討。公共交通機関を不使用とするのは難しいのでは?
、、、資料の中では、こういったことが今後の検討課題となっています。
こういった人たちを迎えいれることになる、宿泊施設、公共交通機関にも外国人対応の準備が求められていくのではないかと思われます。

なお、宿泊の必要な都市ボランティアに対しては、「感染防止に取り組む宿泊施設」の情報を提供する方針となっています。この「感染防止に取り組む宿泊施設」の対象となる要件は書かれていませんが、資料の中で宿泊施設の「業種別ガイドライン」が度々言及されています。このため、日本旅館協会のガイドラインが、その基準となると考えられます。

▶宿泊施設における新型コロナウイルス対応ガイドライン(第1版)

宿泊施設イメージ

宿泊施設では、コロナ対策はもちろんのこと、外国人対応の準備も重要になりそうです。

外国人観客と競技会場

観客をどれだけ入れるか? 外国人観客の入国をどうするか? これは非常に判断の難しい問題です。
他の多くの案件と同様に、最終的な決定は来春(2021年春)までに行うこととなっています。
外国人観客については、14日間隔離・公共交通機関不使用を条件とすることは、事実上困難なため、それに匹敵する措置を検討することとなっています。具体的には、
・入国までの健康管理・検査等の仕組み
・入国時の検査、誓約書など
・入国後も行動管理・健康管理が出来るような仕組みを作る
・各国の状況によっては14日間隔離も含めて検討
観客数についても、検討がなされています。具体的には、プロ野球、Jリーグなどの観客数が徐々に引き上げられていった中での感染状況などが参考となるものと考えられます。テストイベントなどで、対策を試験運用することも検討されています。

競技会場については、トイレと同様に、飲食売店、オフィシャルショップなども観客の動線として検討されています。現時点では、競技だけ行われて何も販売されていないような形では検討されていません。
そして、感染防止策については、訪日外国人に向けた周知も配慮することが明記されています。

スタジアムでの食事

スタジアムでの食事は観戦の楽しみの一つ。オリパラ会場でもさまざまな感染対策が必要となります。

ボランティア、聖火リレー、ライブサイト等

その他にも検討すべき事項は多く、それぞれの課題が提起されています。
都市ボランティア
・屋外の活動が多いので、暑さ対策と両立した感染予防策が必要
・オンラインでの研修、活動時の体調確認、発症した際のフロー策定
・観客との接触を避ける、活動前後の体調管理
聖火リレー
・3密回避、手洗い・手指消毒、マスク着用、大声での会話抑制
・運営スタッフの体調管理の徹底、陽性者発生時の体制構築
ライブサイト(大型スクリーンでの中継など)
・各自治体で、会場、座席数、実施コンテンツなどを検討
・感染状況を踏まえて見直しを行っていく
選手の入院先の確保
・組織委員会と協定を締結する大会指定病院での人的負担軽減
・外国人患者受入医療機関での多言語対応体制の確保

コロナ対策指さし会話

外国人を迎え入れる上でのコロナ対策が、いろいろな場面で求められることになりそうです(画像は弊社の納品した会話ツールより)。

略称のこと

オリパラ関連の資料を読もうとすると、略称が多いことに気づきます。
「IF」ってなんだろう? と思うと、それは「国際競技連盟」。国際サッカー連盟や、国際水泳連盟などいろんな競技団体の国際組織です。考えてみると当たり前のことですが、オリパラにはいろんな競技があり、それぞれに国際的な競技の連盟があります。競技の運営の詳細を決めていくには、その連盟の判断が求められます。つまり、コロナ対策を徹底しながらオリパラを実現するには、国際競技連盟との連携が不可欠なのです。
また当然、国際競技連盟の関係者も多数、競技会場に来ることになります。
オリパラに関わる機関は多数あり、コロナ対策をする上でそれぞれの機関との調整も課題となります。また選手、観客だけはなく、多様な関係者が、さまざまな形で、日本に来るのです。
資料を読む上で、必要になる略称をまとめておきます。

IOC:国際オリンピック委員会(トーマス・バッハ会長、本部はスイスのローザンヌ)
NOC:各国・地域のオリンピック委員会(日本の場合JOC)

IPC:国際パラリンピック委員会(アンドリュー・パーソンズ会長、本部はドイツのボン)
NPC:各国・地域のパラリンピック委員会

TOCOG:オリパラ組織委(東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会)
 →森喜朗組織委員会会長、武藤敏郎事務総長

IF:国際競技連盟(サッカーのFIFA、水泳のFINAなど)

ATO:アディショナル・チーム・オフィシャル(アスリートの活動を⽀援する)
ITO:主に海外から参加する審判等の技術役員
NTO:国内から参加する審判等の技術役員
OBS:オリンピック放送機構(国際映像等を制作し配信する)
RHB:放送権者(放送権を有し自国向け放送を行う)
PRS:報道各社

IBC:国際放送センター
MPC:メインプレスセンター
 →どちらも東京ビッグサイト。東京ビッグサイトが大会時の報道・放送センターとなる。

TOP:オリンピックのワールドワイドパートナー(コカコーラ、パナソニック、トヨタなど)
WADA:世界アンチ・ドーピング機構
CAS:スポーツ仲裁裁判所

資料を読んでの感想:年明けから急ピッチで準備が進むオリパラ。外国語対応も重要!

2020年の春に延期が決まってから、オリパラの準備はなかなか進まない状況にありましたが、カレンダーを見ると、開幕は目前に迫ってきています。
2020年の年明けから止まっていた時計が、2021年に入ると急ピッチで動き出す。資料を読みながらそんな感想を持ちました。
日本国内のコロナの感染状況もよくない中で、オリパラの開催に否定的な意見も多いですが、その中でもさまざまなイベントが行われていることも事実。それらは、さまざまな感染対策を工夫しながら実現されています。
人が移動し、集まることで感染のリスクは高まりますが、一方で、今こそ、そういったイベントで得られるものがあります。明日への希望、活力や勇気といったものがコロナ以前よりも増しているように思います。
オリパラが開催されて、いろいろな国から選手、関係者が集まり、選手が競う姿を世界に発信することは大きな意味を持つと思います。

同時に、オリパラを安全・安心な形で運営するには、非常に多くの人が力が必要となります。
資料を読んでいて思った正直な感想は、国がコントロールできる範囲を超えているのでは? ということでした。むしろ、市町村の担当者の方や、運営に携わる業者といった現場の人たちの力が問われるのではないか? と思いました。

また、日本の現場がいくら頑張っても、日本に来る外国人にコロナ対策のお願いが伝わらなければ、安全・安心は保てません。そのため、外国語での対応の準備も非常に大切になるはずです。弊社はコロナ禍で、さまざまな外国語会話ツールを提供しつづけ、ノウハウも積んできました。2021年のオリパラ準備・開催の中で弊社がお役に立つ場面があれば、これまでの会話ツールで培ってきた経験をご提供していきたいと考えています。

2021年の準備は大変なことになりそうですが、関わる方々の活躍を期待し、弊社もお役に立つ場面があれば全力で取り組んでいきたいと思います。


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